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東京高等裁判所 昭和61年(ネ)1201号 判決 1987年11月24日

控訴人 高島富三夫

被控訴人 高島敏子

主文

一  原判決主文五項を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、控訴人と被控訴人間の次男高島英紀の養育費として、昭和60年2月1日から昭和67年4月1日まで1か月5万円の割合による金員を毎月末日限り支払え。

二  控訴人のその余の控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じこれを4分し、その3を控訴人の負担とし、その余は被控訴人の負担とする。

事実

第一申立

1  控訴人

(一)  本訴について

(1) 原判決中、控訴人敗訴部分を取消す。

(2) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。

(3) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(二)  反訴について

(1) 原判決を取消す。

(2) 控訴人と被控訴人を離婚する。

(3) 控訴人と被控訴人間の次男高島英紀(昭和47年4月13日生)の親権者を控訴人とする。

(4) 被控訴人は控訴人に対し、金300万円及びこれに対する昭和59年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(当審において請求の趣旨を減縮した。)。

(5) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

本件控訴を棄却する(但し、当審において請求の趣旨4の養育費請求の始期を昭和60年2月1日に減縮した。)。

第二主張、証拠

当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、その記載を引用する。

1  原判決6枚目裏5、6行目「与えられ」を「支えられ」と改める。

2  同9枚目裏4行目「燃却処分」を「焼却処分」と改める。

3  同13枚目表5行目「○○消火器」の次に「の者」を加え、同裏1行目「金700万円」を「金300万円」と改める。

4  控訴人の主張

(一)  被控訴人はバルトリン腺膿瘍にとどまらず、慢性の性病に罹患していたものと推測されるが(バルトリン腺膿瘍は主として淋菌感染により起こる。)、控訴人は従前淋疾を病んだこともなく、被控訴人は他の男性との性交により右疾病に罹患したものと考えられ、その他の諸事情をも合わせ考えると、被控訴人の不貞行為は明らかである。

(二)  控訴人の父が癩病に罹患し、○○○○園に収容されていることは、控訴人と被控訴人間の婚姻生活に深刻かつ重大な影響をもたらした。特に、右事実を知つてから、被控訴人とその両親の態度に変化はなかつたものの、被控訴人のその他の親族の差別と偏見には露骨なものがあつた。しかし、控訴人は被控訴人の両親の差別のない深い愛情に感謝し、これに報いるべく生活万般につき努力してきた。

(三)  控訴人は、昭和62年9月現在訴外○○○○○株式会社(以下「○○○○○」という。)に運転手として勤務しており、月収は20万円余りである。

5  被控訴人の主張

(一)  控訴人の主張(一)は否認する。

(二)  同(二)は否認する。被控訴人及びその親族は、控訴人が結婚当初その父のことについて虚偽のことを述べていたこと自体に衝撃を受け、控訴人の性格を問題としたのである。

(三)  同(三)のうち、控訴人が昭和62年9月現在○○○○○に勤務していることは認めるが、月収は知らない。

(四)  次男英紀は、昭和58年9月24日被控訴人に伴われて控訴人方を出たのち、同年10月末頃控訴人方に戻つたが、昭和60年1月末に再び被控訴人の許に来て以来、被控訴人と生活を共にし現在に至つている。したがつて、控訴人に対し同年2月1日から右英紀が成年に達する昭和67年4月13日まで毎月末日限り右英紀の養育費として1か月5万円を支払うことを求める。

6  証拠<省略>

理由

一  当裁判所は、被控訴人の本訴請求につき、離婚並びに慰謝料300万円及びこれに対する昭和59年11月4日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきであり、控訴人の反訴請求につき、理由がないから棄却すべきであり、次男高島英紀の親権者の指定につき、被控訴人と定めるのが相当であり、右英紀の養育費の負担につき、被控訴人が右英紀と遅くとも同居を継続するに至つた昭和60年2月1日から英紀が成年に達する昭和67年4月13日まで毎月末日限り1か月5万円の支払を求める限度で相当であり、財産分与につき、控訴人から被控訴人に対し原判決添付別紙物件目録記載(一)の土地の5分の1の共有持分及び同目録記載(二)の建物を分与し、同建物を明渡すのが相当であると判断する。その理由は、次のとおり訂正、付加するほかは、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

1  原判決14枚目表3行目「原告」から4行目「部分を除く。)」までを「原審(第1、2、3回)及び当審における被控訴人、原審(第1、2回)及び当審における控訴人」と改め、4行目「各本人の供述」の次に「(但し、控訴人の供述中後記措信しない部分を除く。)」を加える。

2  同14枚目表7、8行目「結婚し、」の次に「同年7月7日婚姻の届出をし、」を加え、8行目「の誕生とともに」から9行目「届出をし、」までを「が生れ、」と改める。

3  同15枚目裏5行目「3月29日」を「3月19日」と改める。

4  同16枚目裏3行目「瀕繁」を「頻繁」と改め、4行目「夜は」の前に「昭和54年暮頃から」を加える。

5  同17枚目表1、2行目「不調になつた。」の次に「被控訴人は、昭和55年1月頃からクリーニング店の店員として働き、昭和60年7月に同店をやめて、その後前記「○○」で働いている。また、次男英紀は、昭和58年10月末頃に一旦控訴人方へ戻つて控訴人とともに生活していたが、昭和60年1月末からは被控訴人方で被控訴人とともに生活している。」を加える。

6  同17枚目表3行目「被告本人の供述(第1、2回)」を「乙第10、第11号証の記載、原審(第1、2回)及び当審における控訴人本人の供述」と改め、4行目「反する部分は、」の次に「前掲各証拠に照らし」を、7行目「却つて」の前に「また、前顕甲第3号証の3並びに原審(第1回)及び当審における被控訴人本人の供述によれば、被控訴人は昭和54年11月頃バルトリン腺膿瘍を患つていたことが認められるが、成立に争いのない乙第4号証によつてもバルトリン腺炎が主として淋菌感染によつて発症することが認められるにとどまり、被控訴人の右疾病が淋菌に起因するものであることを認めるに足りる証拠はなく、被控訴人がバルトリン腺膿瘍を患つたことをもつて被控訴人が淋菌に感染していたこと、ひいては被控訴人に不貞行為があつたことを推認することはできず、」を各加え、7、8行目「原告本人の供述(第1、2、3回)」を「原審(第1、2、3回)及び当審における被控訴人本人の供述」と改める。

7  同17枚目裏3行目「従つて、」の次に「被控訴人、控訴人間には民法770条1項5号に定める婚姻を継続し難い重大な事由があるものと認められ、」を加える。

8  同17枚目裏7行目「前掲各証拠」から同18枚目表4行目「相当である。」までを、「前顕各証拠及び成立に争いのない乙第7号証並びに弁論の全趣旨によれば、次男英紀は、前示のとおり昭和58年9月24日に被控訴人に伴われて控訴人方を出たが、同年10月末頃控訴人の許に戻り控訴人と生活を共にしていたが、その理由は、控訴人方が学校に近く、友人やいとこが近くにいたためであること、控訴人は昭和59年から○○○○○に運転手として勤務していて、英紀を十分に監護することはできず、日常生活は被控訴人の義姉が、学校の関係は被控訴人が監護にあたつていたこと、英紀はその後昭和60年1月末に被控訴人の許に来て、その後は被控訴人と生活を共にしていることが認められ、以上の事実に徴すれば、被控訴人において英紀を監護養育するのが相当であるから、英紀の親権者は被控訴人と定める。」と改める。

9  同18枚目表5行目「養育費の負担について」の次に、行をかえて次のとおり加える。

「夫婦の一方が他方に対して離婚訴訟を提起するとともに、自己が離婚後の親権者に指定されることを前提として、子の養育費の支払を求める付帯申立ての適法性については、右養育費の請求をもつて民法877条ないし879条所定の扶養の請求とみるべきであり、また、人事訴訟手続法15条の規定は、本来家庭裁判所の審判事項ではあるが、離婚に必然的に付随し判断の対象が離婚原因の判断と密接不可分の関係にある事項について、特に通常裁判所が決定することを認めた趣旨と解すべきであるから、右以外の事項について右規定を類推適用することは許されず、右養育費の請求は、民法766条(同法771条において準用する場合を含む。)及び人事訴訟手続法15条にいう監護についての必要な事項には含まれないものであり、仮に含まれるとしても、その請求をなしうる者は、離婚に際して親権者に指定されなかつた父又は母あるいは第三者で子の監護者に指定された者に限られるものと解すべきであるとの見解がみられるが、以下の理由により右申立ては適法なものであると解する。

すなわち、未成熟子に対する親の監護養育義務は、法律上の親子関係に基づきその子が自活できるようになるまでの間子に対して自己と同等の生活を保持させる義務であつて、一般親族間の扶養義務が扶養可能状態にある者の要扶養状態にある者に対する義務であるのとはその性質を異にするものであり、一般親族間の扶養請求が家事審判法9条1項乙類8号の「民法877条ないし880条の規定による扶養に関する処分」としての扶養請求であるのに対し、未成熟子の父母間の養育費の請求は家事審判法9条1項乙類4号の「民法766条(771条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護者の指定その他子の監護に関する処分」としての監護費用の請求と解すべきものであるから、未成熟子の父母の一方の他方に対する養育費の支払を命ずる判決・審判は、人事訴訟法15条1項にいう「子ノ監護ニ付キ必要ナル事項」としての監護費の負担、家事審判規則53条にいう「子の引渡又は扶養料その他の財産上の給付」としての財産上の給付を命ずるものにほかならないと解するのが相当である。

また、子の監護は親権の内容のうちで最も重要なものであるから、離婚に際して親権者の他にとくに監護者が指定されないような場合には、親権者に指定された者は同時に監護者たる地位をも有するものというべきであり、そのことは親権者に指定されたことによつてその者が子の養育費をすべて負担すべきことを意味するものではなく、他方、親権者に指定されなかつた父母の一方もまたさきに判示したとおり未成熟の子に対しその生活を保持すべき義務を免れるべきものではないから、親権者として現に未成熟子を監護養育している父母の一方は、他方に対して民法766条(同法771条において準用する場合を含む。)により子の養育費の分担を請求することができるものというべきであり、かつ、右養育費の分担は、離婚に必然的に付随し、財産分与等の離婚給付とも密接に関連する事項であるから、人事訴訟手続において離婚等と同時に一定の措置が講ぜられて然るべきものと解されるので、いずれにしても、人事訴訟手続法15条1項にいう「子ノ監護ニ付キ必要ナル事項」としての養育費の請求をなしうる者を、離婚に際して親権者に指定されなかつた父又は母あるいは第三者で監護者に指定された者に限定すべき合理的理由はない。

したがつて、現に子を監護養育している夫婦の一方が他方に対して離婚訴訟を提起するとともに、子の養育費の支払を求める付帯請求の申立ては、離婚の際にその申立人が親権者に指定される場合であつても、人事訴訟手続法15条1項にいう「子ノ監護ニ付キ必要ナル事項」についての申立てとして適法であると解すべきである。」

10  同18枚目表6行目「そうすると、原告が」を「ところで、前項で説示したとおり被控訴人が親権者として」と、7行目「扶養」を「監護養育」と、9、10行目「別居した昭和58年9月24日」を「遅くとも継続して被控訴人が英紀と同居して同人を監護養育するに至つた昭和60年2月1日」と、裏3行目「被告」を「原審における控訴人」と各改める。

11  同19枚目表5行目「被告本人の供述(第2回)」を「原審における控訴人本人の供述(第1回)」と、6行目「原告本人の供述(第1、2回)を「原審における被控訴人本人の供述(第1、2回)」と各改める。

二  よつて、原判決主文5項を主文1項のとおり変更し、控訴人のその余の控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法96条、89条、92条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中村修三 裁判官 篠田省二 関野杜滋子)

〔参照〕原審(横浜地昭58(タ)207号、同59(タ)13号昭61.3.26判決)

主文

一 原告と被告を離婚する。

二 原、被告間の次男英紀(昭和47年4月13日生)の親権者を原告とする。

三 被告は、原告に対し、金300万円及びこれに対する昭和58年11月4日から支払済みまで年5分の金員を支払え。

四 (一) 被告から原告に対し、別紙物件目録記載(1)の土地の5分の1の共有持分及び同目録記載(2)の建物を分与する。

(二) 被告は、原告に対し、財産分与を原因として、右土地持分及び建物所有権の移転登記手続をせよ。

(三) 被告は、原告に対し、右建物を明け渡せ。

五 被告は、原告に対し、次男英紀の養育費として、昭和58年9月24日から同67年4月13日まで毎月末日限り各金5万円を支払え。

六 原告のその余の本訴請求及び被告の反訴請求を棄却する。

七 訴訟費用は、本訴反訴を通じこれを4分し、その3を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(本訴)

一 請求の趣旨

1 主文第一、二項同旨

2 被告は、原告に対し、金700万円及びこれに対する昭和58年11月4日から支払済みまで年5分の金員を支払え。

3 主文第四項同旨

4 被告は、原告に対し、次男英紀の養育費として、昭和58年9月15日から同67年4月13日まで毎月末日限り各金5万円を支払え。

5 訴訟費用は、被告の負担とする。

6 第2ないし5項につき、仮執行宣言

二 請求原因に対する認否

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は、原告の負担とする。

(反訴)

三 請求の趣旨

1 被告と原告を離婚する。

2 原、被告間の次男英紀の親権者を被告とする。

3 原告は、被告に対し、金700万円及びこれに対する昭和59年1月25日から支払済みまで年5分の金員を支払え。

4 訴訟費用は、原告の負担とする。

5 第3項につき、仮執行宣言

四 請求の趣旨に対する答弁

1 被告の反訴請求を棄却する。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

第二主張

(本訴)

一 請求原因

1 原告と被告は、昭和36年6月19日結婚し、同37年3月27日婚姻届を出し、同日長女佐代子、同40年3月4日長男幸英、同47年4月13日次男英紀をもうけた。

2 (離婚原因)

(一) 原告は、我慢強く、陽気、堅実な性格であるのに対し、被告は、神経質、気短かで、物事に飽き易く、派手好み、かつ見栄つぱりであり、両者は、本来的に性格が合わなかつた。

(二) 被告は、浪費癖があり、婚姻した昭和36年頃は財産がなく借金だらけという状態であつた。同41年頃、原告の実家で経営する寿司屋兼中華料理店「○○」に勤めたが、毎夜外出して散財していた。同42年から同58年5月頃までは青果市場に勤務したが、その当時も、収入不相応な車を買い、短期間に買い替え、麻雀、ゴルフ、競馬、海外旅行と遊び回つていた。昭和54年頃までは、被告が家計に入れるのは、月給17、8万円のうち12、3万円で、原告は、その不足を補うため、働いたり、実家から借金したりしていたが、被告は、同年頃以後、一切家計費を入れず、同58年、長男と長女が相ついで入院したときも、入院費すら出さなかつた。

被告は、それでも遊興費に不足したらしく、電気工事の仕事をしていた頃には電線の窃盗事件を起し、青果市場では青果物を横流しし、子供の貯金にまで手を出して無断で使用したことがあつた。

(三) 被告は、結婚当初から、原告に対して、しばしば暴力をふるつたが、昭和42年頃には、それが激しくなり、こたつ板で原告の頭部を強打したこともあり、以来、原告は、月に数回は頭痛に悩まされるようになつた。昭和54年には、原告は被告の虐待に耐えかねて別居しようとしたが、その際には、被告は、タンスの引出しを原告にほうり投げ、原告は、全治2か月の前胸部挫傷等の傷害を受けた。そのほか、被告は、外で意に添わないことがあつたとき、あるいは原告が笑顔を見せないと言つていいがかりをつけたりして、物を投げ、足蹴にするなどの暴行を続け、原告の衣類その他の所有物を燃やすなどした。暴行は、飲酒の際に特に激しく、被告の飲酒癖は、結婚当初からあつたが、その後次第に酒量を増し、気に入らぬことがあると多量に飲み、最近では、休日になると朝、昼、晩と飲むようになつた。

(四) 被告は、原告との性生活においても常軌を逸し、欲望の赴くままに性交渉を迫り、原告が応じないと暴力をふるい、避妊手段を講じるよう頼んでも一切無視し、そのため、原告は12、3年間に8回も堕胎したが、被告は、その際も「誰の子か分かつたものではない。」と暴言を吐いた。昭和54年には、原告はバルトリン腺膿瘍を患つたが、その際も、被告は暴力で性関係を強要した。

(五) 被告は、昭和46年には、青果会社の事務員と継続して関係し、現在も、近所の主婦と外泊等を繰り返している。その一方で、被告は、原告に対し、あらぬ妄想を抱き、全く原因のない浮気の嫌疑をかけて、原告の持物を検査したりした。

(六) 原告は、以上のような被告の性行に耐えかね、何度も別れようと思いつめ、一時別居したこともあつたが、子供のこと等の事情で夫婦生活を継続してきた。しかし、被告の行状は20年以上変わらず、また、原告と一緒に住みたいとの子供の言葉に与えられ、離婚を決意し、昭和58年9月24日、子供ら3名とともに、とりあえず近所に居を移した。

以上、原、被告の婚姻破綻の原因は、被告の浪費癖、暴力、飲酒、異常性格、不貞行為等のほか、両者の性格の不一致にあり、これは民法770条1項5号に該当するから、原告は、被告との離婚を求める。

3 (親権者の指定)

(一) 子供らは、原告を慕い、原告と一緒に暮すことを希望している。

(二) 原告の兄弟は、近隣に住んでいて、原告に対し、物心両面の援助をすることを申し出ている。

(三) 被告を親権者にすることは、被告の経済状態及びこれまでの生活態度からして適当でない。

以上のことから、次男英紀の親権者は原告と定めるのが相当である。

4 (財産分与)

(一) 原、被告の共通の資産の主なものは、原告が父親から相続した原告所有土地上に昭和48年に建築した別紙物件目録記載(2)の建物(被告名義)及び右原告所有土地の隣地で現在右建物の庭として使用している同目録記載(1)の土地(原、被告及び子供3名の共有名義)である。右土地は、原告の父が原告らに贈与したものであるが、共有名義としたのは税金対策上であり、被告の持分はその固有財産ではない。なお、右建物の時価は300万円以上、右土地のそれは3500万円以上と考えられる。

そのほかの財産としては、55万円で建造した墓、被告が青果市場から退職した際の退職金約70万円その他で200万円ほどある。

(二) 原告は、家事、育児の傍ら、家計を支えるべく、内職、会社勤め等をして働いてきた。また、前記の土地は、もともと原告の父の所有物であつたこと、前記建物の近所には原告の親兄弟が居住し、子供の学校にも近く、子供らも母子一緒に右建物で居住することを望んでいること等の事情を考えると、離婚に伴う財産分与として、右土地の被告名義の5分の1の共有持分及び右建物を原告に給付するのが相当である。

5 (慰藉料)

原告が22年間に亘り前記のような虐待を受けたことを勘案し、原告は、被告に対し、金700万円の慰藉料及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和58年11月4日から支払済みまで民法所定年5分の遅延損害金の支払を求める。

6 (次男の扶養費)

右財産分与及び慰藉料請求その他諸般の事情を勘案し、次男英紀の養育費として、別居後の昭和58年9月15日から英紀が成人に達する同67年4月13日まで1か月当たり金5万円の支払を求める。

二 請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は、認める。

2 同2(一)の事実は、否認する。後記三2(一)のとおりである。

3 同2(二)の事実は、否認する。原告の指摘する被告の遊びなるものは、多額の費用をかけたわけでも、それに没頭して仕事や家庭を疎かにしたというものでもない。一般人がレジヤーとして適度にたしなむ程度であり、また、仕事上のつき合いから必要な場合もあり、とがめられるべきものではない。

4 同2(三)の事実は、否認する。原告の行状が余りにもひどく、口答えし、罵つたりするので、3、4回は実力を行使したことはあるが、原告のいうようなものではない。衣類などを燃やしたというのは、いくら言つても整頓しないので、明らかに不用となつたおしめ、洋服などを燃却処分したに過ぎない。

5 同2(四)の事実は、否認する。堕胎は、2回は被告が申し入れたものであるが、その余は原告の発意による。

6 同2(五)の事実は、否認する。原告の方こそ、数々の不貞行為があり、性的にふしだらであることは、後記の反訴請求原因のとおりである。

7 同2(六)の事実は、否認する。

8 同3の主張は、争う。次男は、原告の許から逃げ帰つてきており、その他の事情を考えると、被告が親権者となるのが相当である。

9 同4の主張は、(一)の第1文の事実のみ認め、その余は争う。なお、被告は、原告所有土地に対し、別紙物件目録記載(2)の建物所有のために借地権を有している。また、仮に財産分与がなされるべきものとしても、金銭支払によるのが適当である。

10 同5、6の主張は、争う。

(反訴)

三 請求原因

1 前記一1に同じ。

2 (離婚原因)

(一) 被告は、我慢強く、社交性もあり、竹を割つたような性格で、人に好かれる。他方、原告は、ルーズ、見栄つぱり、派手好きで、気性が荒く、我を通し、自分に非があつても認めない。キヤバレー、スナツクのホステスとして勤めることが好きで、家庭の主婦におさまつていることができない性格である。

(二) 被告は、昭和41、2年頃、原告とともに、原告の母、弟が経営する「○○」を手伝つたが、客の1人にこげつき債権を作つてしまつたことから、原告と原告の母が口論したこともあり、また、母の考えは、結局のところ「○○」は原告の弟にやるということであつたので、はりあいがなくなり、被告も原告も「○○」をやめた。その後数か月した頃、原告は突然、キヤバレーのホステスをやりたいと言い出した。被告は反対したが、原告は、きき入れずにキヤバレー勤めを始め、1か月もたたないうちに、被告が迎えにいくのを煙たがり、キヤバレーの客や従業員と、店がひけた後、遊びに行つたり、朝帰りすることが珍しくなくなり、そのうち、子供らを連れて家出をし、一方的に離婚届を出し、キヤバレーのバンドマンと約3か月間同棲した。その後、原告は、自動車事故を起し相手を死亡させ、家に戻つた。

(三) その後暫くして、原告は、スナツクの手伝いを始め、夜、家を空けるようになり、帰宅が遅く、朝帰りになることが再発した。スナツクの常連で○○○○○○のセールスマンをしている男と親密になり、婦人科の方面の病気で入院中、その男が見舞いに来て、原告と夫婦以上の親密な態度であつた。

(四) 原告は、退院後1週間もたたない内に家出し、離婚調停を申し立てたが、その後、一応戻ることになつた。そして、原告の兄弟の会社に勤めたものの、1年位で争いを起してやめ、再び「○○」に勤めたが、従業員の板前と関係し、その現場を原告の兄弟に発見され、大騒ぎになつた。被告は、呆れたが、将来を考え、このときはむしろ原告をかばつた。

(五) しかし、数か月後、原告は、再び、被告に勤め先を教えずに、大和市のスナツクに勤めるようになつた。朝帰りが始まり、2日も帰らないことが度々あつた。後になつて、スナツクの仕事だけで遅くなつていたのでないことが分かつた。

(六) その後間もなくして、被告は、ある探偵社からの通報で、原告がクリーニング屋の主人と不倫の関係を続けている、その店に通い、泊つてくるということを知つた。昭和56年7月末のこと、被告は、クリーニング屋が原告を家まで送つてくる現場をとらえた。被告は、許すことができなかつたので、その夕方、原告が家に入ることを認めなかつた。それ以来、原告は家に帰らない。しかし、同年11月頃、原告が帰つてきたので、被告は、子供のこともあるし、原告が考え直すなら戻つてもよいと言つたところ、原告は、戻るには戻つたものの、自分の荷物をもつてこないし、夜は11時頃に帰り、祭日の前日や土曜日には外泊するなど目に余る行動を繰り返したうえ、同58年5月、家庭裁判所に調停を申し立て、不調に終ると、同年9月25日、完全に家を出た。子供らを連れていつたが、次男は、1週間後に逃げ帰つてきた。

(七) 以上のほか、原告は、昭和43、44年頃、「○○」の隣りの○○○○○と夜遊びをしたことがあり、同50年頃には、原告の親類の○○工務店の職人斉藤某が、被告の出張の際、原告と2人で被告方にとじこもり、解雇されたことがある。

以上の次第で、原告には度重なる不貞行為があり、これは同時に、婚姻を継続し難い重大な事由にも該当するので、被告は、原告に対し、反訴として、離婚を請求し、慰藉料金700万円及びこれに対する本件反訴状が送達された翌日である昭和59年1月25日から支払済みまで民法所定年5分の遅延損害金の支払を求める。

四 請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2(一)ないし(七)の事実は否認する。

第三証拠<省略>

理由

一 公文書であつて真正に成立したものと認められる甲第1、2、5号証、原告本人の供述(第1回)により成立を認めうる甲第3号証の1、2、3、証人松田弘、同松田トヨ子の各証言、原告(第1、2、3回)、被告(第1、2回。但し、後記措信しない部分を除く。)各本人の供述に弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

1 原告と被告は、中学の同級生であることから、つき合いを始め、約1年間の交際の後、昭和36年6月19日結婚し、翌37年3月27日長女佐代子の誕生とともに婚姻の届出をし、同40年3月4日長男幸英が生れた。

2 被告は、結婚した頃は、○○工業に勤めていた。昭和40年に、体調が思わしくないことなどの理由で退職し、○電気に就職したが、会社の電線の横流しに加担したことが発覚して、3か月位で辞め、その後、○○土建、○○電気にそれぞれ短期間勤め、洋食屋の見習いをしたりした後、昭和41年に原告の母が経営する寿司屋兼中華料理店「○○」に原告ともども住み込み、同店の手伝いをしたが、客にかけ売りをし、あるいは原告の兄の取引先に生コンの買い手を紹介したところ代金を踏み倒されたりして、原告の親兄弟に損害を与えたことなどから居づらくなり、右「○○」の手伝いをやめた。その後、青果市場に勤めるようになつたが、そこでは、競りの値段よりも安く業者に売り、リベートを受け取るという事件を起した。

3 原告は、「○○」をやめた後、借金の返済と生活費を補うため、被告の同意を得て、横浜駅西口のキヤバレー「○○」にホステスとして勤めるようになつた。しかし、被告が友人4、5人を「○○」に連れてきて飲食して原告のつけにし、原告の給料が3分の2ほども控除されることがあつたため、原告が被告に「働く意味がない。」と文句を言つたところ、被告は、原告に対し「男でもできたのではないか。」と言い、殴る、蹴るの暴行を働いた。また、原告が先輩から誘われて店がひけた後、客達と食事に行き、婦りが遅くなり、怒つた被告が原告を殴つたこともあつた。

4 被告の暴力は、段々ひどくなり、昭和43年頃には、こたつ板で原告の頭部を殴るなどのことがあつたので、原告は離婚を考え、今後再び暴力をふるつたときは離婚することを被告に承諾させ、離婚届書を作成した。その10日位後に、被告が酔つて暴れたので、原告はついに家を出て、別に借りたアパートに移り、同43年3月29日、離婚届を提出した。しかし、被告は、その1週間後の同月25日、原告に無断で婚姻届を出すとともに、家庭裁判所に調停を申し立て、調停の結果、被告は今後、暴力をふるわない、暴行した場合は離婚すると約束し、原告は家に戻つた。その間、被告が、原告はキヤバレーのバンドマンとアパートで同棲していると言うので、原告の兄弟が調査したことがあつたが、そういう事実はなく、被告の邪推であると判明したことがあつた。

5 昭和47年4月13日に次男英紀が誕生、同48年には、住宅(別紙物件目録記載(2)の建物)を新築し、原告は自宅で電話部品のコーテイングの内職をし、原、被告の関係は、一時小康状態を保つたが、昭和54年になつて、原告が友達の経営するスナツクに勤めるようになつて再び、被告の暴力が再発した。原告は、その頃、子宮口に腫瘍ができ、医師から性交渉を控えるように言われていたが、被告はこれに構わず要求し、原告が断ると殴るということがあつたため、原告は家を出た。(なお、結婚生活を通じて、原告は、8回の妊娠中絶をした。)その頃、原告の父が倒れたため、一時、原告が家に戻つたことがあつたが、戻るとまた被告が暴行するということが瀕繁にあつたため、原告は、夜は別に借りたアパートに泊り、朝、被告が出かけた後に家に戻つて家事をするという生活になり、被告は、この頃から原告に生活費を渡さなくなつた。

6 昭和56年になつて、被告は、調停を申し立てたが、その後また、被告が原告に暴力をふるつたので、調停は不調に終つた。昭和58年3月には、原告が調停を申し立てたが、この頃長男が入院したのにかかわらず、被告は入院費を渡さなかつたことがあり、原告は、同年9月24日、子供3人を連れて家を出、同年10月4日、調停は不調になつた。

以上の事実が認められ、被告本人の供述(第1、2回)中この認定に反する部分は、採用しない。

二 被告は、原告の不貞行為を主張するけれども、この主張に沿う被告の供述はいずれも曖昧で、右主張を肯認するに足らず、却つて、前顕証人松田弘、同松田トヨ子の各証言、原告本人の供述(第1、2、3回)によると、被告主張のような事実はなかつたものと認められる。

三 以上認定の事実によると、原、被告間の婚姻生活は既に破綻しているものとみられるところ、その主たる原因は、被告の原告に対する暴行、性交渉の強要、原告の行動に対する邪推、生活費を渡さないことなどにあつたというべきである。従つて、原告の本訴離婚請求は理由があり認容すべきであるが、被告は、破綻につき専ら責任があるものであるから、反訴離婚請求は理由がなく棄却することとする。

四 親権者の指定について

前掲各証拠によると、原、被告の次男英紀は、昭和58年9月24日に原告とともに一旦は家を出たが、その後、被告の許に戻り、現在は被告と生活していることが認められるけれども、他方、右各証拠によると、これは、家が学校に近く、友達やいとこが近くにいるためであること、被告は現在、○○○○のセールスドライバーをしていて、次男を十分に世話することはできず、日常生活は原告の義姉が、学校の関係は原告が面倒をみていることが認められ、これによると、英紀の親権者は原告と定めるのが相当である。

五 養育費の負担について

そうすると、原告が英紀を監護すべきことになるところ、昭和47年生れの男子を扶養するには、1か月当たり少なくとも金10万円を要することは、顕著な事実であるから、被告は、原告に対し、英紀の養育費として、別居した昭和58年9月24日から英紀が成人に達する同67年4月13日まで1か月金5万円宛を支払うべきである。

六 離婚に伴う財産上の給付について

前掲各証拠並びに公文書であつて真正に成立したものと認められる甲第4号証、被告本人の供述(第1回)により成立を認めうる甲第6号証の2及び弁論の全趣旨によると、前記一認定の事実のほか、原、被告が昭和48年に新築した別紙物件目録記載(2)の建物は被告名義であり、その評価額は約200万円位であること、別紙物件目録記載(1)の土地は、右建物の庭として使用されているものであるが、もと原告の父松田弘義の所有であつたところ、昭和50年に原告、被告、子供ら3名に贈与され、この5名の共有名義となつていること、右土地の評価額は約3500万円であること、そのほかに原、被告の資産といえるものとしては、被告が昭和58年5月に青果市場を退職したときの退職金の残りが70万円位と55万円位で購入した墓があることが認められる。被告は、右建物の敷地である原告所有土地に借地権を有していると主張するけれども、被告本人の供述(第2回)中この主張に沿う趣旨の部分は、原告本人の供述(第1、2回)に照らして採用し難く、乙第1号証はその成立を肯認するに足る証拠がないから証拠として採用することができず、ほかに右主張を肯認するに足る証拠はない。

以上の事実及び本件記録に顕われたその他の諸事情を総合勘案すると、被告は、原告に対し、離婚に伴う慰藉料として金300万円を支払い、財産分与として、別紙物件目録記載(1)の土地の被告名義の持分5分の1と同目録記載(2)の建物を分与すべきものとするのが相当である。

七 以上によると、原告の本訴請求は、離婚請求並びに慰藉料金300万円及びこれに対する本件訴状が送達された翌日である昭和59年11月4日から支払済みまで民法所定年5分の遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の慰藉料請求及び反訴請求をいずれも棄却することとし、親権者の指定及び養育費の負担、財産分与につき人訴法15条を、訴訟費用の負担につき民訴法89条、92条、240条を適用し、事案の性質に鑑み、仮執行宣言は付さないこととして、主文のとおり判決する。

別紙物件目録<省略>

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